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利用者と一緒に挑戦し、自分の可能性も広げていく。

社会福祉法人南山城学園障害者施設 凛 生活支援員
榎木薗 純子

社会福祉士  生活支援員  福祉施設 

障害者福祉施設で、ソーシャルワーカーとして活躍中の榎木薗純子さんは、施設で生活する利用者の日常生活全般にわたる支援や作業活動、就労支援を行なっています。

榎木薗さんは、そういった直接的な支援以外にも、施設を地域に開き、利用者とつなぐイベントの企画運営など、さまざまな仕事を手がけています。

屈託のない笑顔でまわりの人たちを魅了する榎木薗さんですが、実は、自他ともに認める"根っからの負けずぎらい"。

お話の途中でかいま見えるその表情に見える、強い信念。榎木薗さんが考える、現場におけるソーシャルワークをお聞きしました。

自分に戸惑いがあったからこそ、もっとオープンな関係を築きたい

「凛」は住宅街の中に建てられた地域に根ざす施設。カフェスペース「ぷちぽんと kitchen + farm」を併設し、障害者と一般のお客様との接点があるのは、この施設ならでは。

「イベントを通して、地域の方たちと利用者さんにとって開かれたコミュニケーションを生み出すきっかけづくりをしています。施設や利用者さんをより身近に感じてもらい、障害者や福祉に関するイメージを転換していけたらいいなと思っています。」

そう屈託のない笑顔で語る榎木薗さんは、入職3年目の期待の若手。大学で福祉を学び、「凛」に入職しました。けれど、もともとソーシャルワーカーを目指していたのかというと、そうではなかったようです。

「福祉関係の仕事に就きたいとは思っていたので、大学時代に社会福祉士の資格も取得していたのですが、就職活動がはじまっても具体的に何がしたいのかわからずにいたんです。大学の実習で訪れた障害者施設で、利用者さんとの関わりがだんだん楽しくなってきて。ある日、実習先の職員の方に『榎木薗さんは、現場に向いてるよね』と言われて。自分では自覚していなかったのですが『現場の方がそう言ってくれるならば、施設で働いてみよう!』と背中を押されたんです。」

やわらかい物腰で、人からもよく"話しかけやすい"と言われる榎木薗さんですが、自ら積極的にコミュニケーションを取れるようになったのは、仕事をはじめてからなのだといいます。

「もともと人見知りな性格だったんです。けれど、利用者さんとの関わりの中では、私が黙っていたらコミュニケーションがはじまらない。自分からアクションを起こさないと何も変わらないのだとわかってから、少しずつ自分自身が変化していったんです。」

また、大学生の頃に障害者支援施設へ実習に行くまでは、障害者の方とのコミュニケーションに戸惑いがあったのだといいます。

「どう話しかければいいのか、どのように反応すればいいのか…正解がわからなくて。けれど、実習に通ううちに、適切な関わり方をすればスムーズにコミュニケーションが取れるのだと気づいたんです。福祉の勉強をしていても、はじめは戸惑うのだから、福祉を学んでいない人ならなおさらだと思います。だからこそ、利用者さんと地域の方がよりオープンに触れあえるきっかけをしかけていきたいんです。」

"できない仕事"は、きっとない!

ここで、榎木薗さんの1週間の仕事をみてみましょう。食事や入浴などの介助をする"直接支援"のほかに、利用者の経験が増えるようにと、施設や管理運営をしている畑で年間10回ほど開催しているイベントの企画・実行も手がけています。

現場にとどまらず、思ったことを実現しようという意欲の高い榎木薗さんは、なんだか頼もしい雰囲気に満ちています。同僚に話を聞くと、「とても積極的でいろんな仕事を任されている」ようです。

「せっかくいただいたお仕事は、できる限り引き受けるようにしています。根っからの負けずぎらいなので、経験のないことでも、できる方法を模索して"できない"とは言わないようにしています。私の目標は、入職したばかりの頃にお世話になった、母親くらい歳の離れた先輩たち。自分より上手にできる人がいたら、まずは真似をしてみるんです。けれど、ただ真似をするだけでは私らしさがなくなってしまうので、自分らしさも出せるように心がけています。」

人をひきつける笑顔の奥には、どんな仕事においても大切な、たゆまない努力と強い信念がうかがえます。ちなみに、中高生時代は6年間ブラスバンド部に所属し、日々、ひたむきに練習に励んできたのだそう。現在も、アンサンブルチームを組んで音楽活動を続けています。

「休みでも何かしていたいんです。ぼーっとしていたらもったいないと思ってしまうし。部活をやりとげた経験があるから、、少々のことではへこたれないと思います。」

視点を変えることで見えくる、眠っていた魅力や能力

社会福祉士の資格を持つ榎木薗さん。ソーシャルワーカーとしての役割は、現場でどのように活かされているのでしょうか。

「現場では、利用者さんの思いに耳を傾けて本音をくみとることからはじまります。精神障害者や知的障害者の方たちとの関わり方は、福祉の専門的な知識があるから理解できる部分もあって。だから、ソーシャルワークの知識や技術を生かして、とことん利用者さんの立場や状況に沿うことが大切なんです。」

榎木薗さんは、現場で実践を重ねる中で、学校で学んだ知識の大切さを実感しているようです。 施設の中で、ソーシャルワーカーは、利用者が何を求めているのかを正しく知り、それが生活の中でどんな状況から生じているのかを確認していきます。その過程で、利用者の行動を把握するための、2つの評価軸があります。一つは、検査を通して客観的に測る手法、二つ目は、日々の生活の中でソーシャルワーカーなどの生活支援員が見つけた特徴や記録に基づくもの。

「障害を持っている方は、大人になってから公的な検査を受けている人は少なくて、幼い頃に交付された障害者手帳を基準にして障害がどの程度なのかを判断されてしまうことが多いんです。現在のご本人のお気持ちや能力を測る機会が、あまりに少ない。私たちの主観だけで判断しては、どんなに気をつけてもやはり思い込みが入ってしまうことがあります。だから、ご本人の特性をきちんと把握するためには客観的な視点から行う検査も必要なんです。」

客観的な所見と、現場でソーシャルワーカーが把握している利用者の様子の両方をあわせて、本人のことを知り、支援に活かしていくことこそがソーシャワークなのだと語ります。

ここで、具体的な例をあげましょう。知的障害を持つAさんが公的な検査を受けてみると、数字が理解できていないことが判明。日付を理解したり、時計を読んだりすることができなかったのです。

「『10時まで待っていてくださいね』とAさんに話しかけても、"10時"が理解できていないので、ご本人の混乱を招いてしまう。数字は読めるけれど言っていることを理解できないことと、数字が読めないから言っていることが理解できないのでは、対応がずいぶん変わってきます。」

「また、検査で課題を与えると笑ってしまうBさんの場合は、"わからなくて困っている"状況に陥ったとき、助けを求めるために笑っていたことがわかったんです。そういう発見があれば、Bさんの日常における行動の理解が深まり、Bさんの意志に対して予測が立てられるので、より適した支援ができるんです。」

もしかすると、"楽しいという感情があるから笑う"、ということすらも思い込みなのかもしれません。自分にとっては”当たり前”だと認識していることが、相手にとってはそうではないケースはきっと多いのではないでしょうか。相手もそう思っているはずだという思い込みをなくせば、コミュニケーションはもっとスムーズになり、誰もが暮らしやすい世の中になるのだと思います。けれど、そう簡単にはいかないから、障害者の方たちと一方通行ではない関係を築き、いい部分を伸ばしていくこと。これこそが、ソーシャルワーカーとしての大きな役割だといえるのかもしれません。

だから、「凛」では、ソーシャルワーカーが見つけたその人の特徴に加え、公的な検査を通して客観的に測る手法も積極的に取り入れています。

人との関わりや、思いを伝えることが苦手な、自閉症のDさんと言う利用者がいました。

「Dさんは、言葉を発しないので、もともと意思を伝える手段を持っていないと、支援員は認識していたんです。食べることが大好きなDさんが、「凛」で生活をする中で楽しみなことはなんだろうとずっと考えていて。そして、検査の結果で得た気づきを基に、”おやつカード”を導入してみたんです。今までは、意思表示ができずに与えられたときだけおやつを食べていたけれど、Dさんが食べたいときにカードを使って希望できるようにと思って。そうしたら、これまでできなかった「おやつを食べたい」という思いをちゃんと伝えることができるようになったんです。」

要求が"できない"ことイコール、要求が"ない"わけではありません。検査を通して利用者の思いを知ることは、社会と人とをつなぐ現場のソーシャルワーカーだからできる、大切な仕事だと言えそうです。

「私たちができないと思い込んでいただけで、コミュニケーションをとる手段があればちゃんと表現できるのだと実感した、印象的なできごとでした。誰であってもその人の一つの側面から判断するんじゃなくて、ちょっとだけ客観的な視点を持って見つめれば、その人の中に眠っている新しい魅力や能力を知ることが、きっとできる。そう考えると、日々の人間関係や、職員どうしの関係においても、ソーシャルワークの知識って活かせるものではないかと思います。」

現場の仕事は、想像よりもずっと幅広い

日々、どうすれば利用者が快適に楽しく暮らせるのかを一番に考えながら仕事に励む榎木薗さんが、いつも心がけていることがあります。

「誰のため、何のために仕事をしているのかという点は、絶対にぶれないようにしています。あくまで主役は利用者さん。私たちは、利用者さん一人ひとりが持つ夢や目標を共有し、一緒に叶えていくために仕事をしているのだということを忘れてはいけない。だから、試行錯誤しながらも、利用者さんのニーズをくみ取るための努力は常に怠ってはいけないと思うんです。」

そう語る榎木薗さんのこれからの目標は、利用者の可能性を広げること。外に出て、参加できるイベントを増やしていきたいと思っています。

「利用者さんが畑で採ってきた野菜が目の前で売れたら、ご本人にとって成功体験となるだろうし、カフェで接客をすることで一般のお客様との接点をつくることができる。そういう経験を積み重ねていけば、利用者さんのスキルアップにつながり、ほかの事業所でも作業ができるようになるかもしれません。そして、地域の方との接点をつくることで、お互いの理解が深まっていく。そうやって関係が広がっていくことで、利用者さんも、この町で生活する人たちにとっても、暮らしやすい地域がつくれると思うんです。」

榎木薗さんにとって、どんな仕事においても目的は利用者の生活を豊かにすること。学生時代の経験も含めて、これまで培ってきたことを活かせる場面がたくさんあるといいます。

「現場の仕事は、想像以上に幅広い。カフェで接客をすることもあれば、一緒に工作をすることもある。積み重ねてきた経験や身につけてきた技術があればあるほど、その経験を持って利用者さんと一緒に挑戦できることが多い。結果的に、それが利用者さんの支援に活きてくるのだと信じています。」

テキスト・写真 山森彩 2018年1月17日

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