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ソーシャルワーカーは、個人の問題を社会化していく人。

NPO法人Social Change Agency 代表
横山 北斗

社会福祉士  NPO  人材育成 

子どものころ、「困っている人を助けたい」って、一度や二度は、みんな思ったことがあるんじゃないかと思う。

私もそんなことを、作文に書いたことがある気がする。でも、「サッカー選手になりたい」「女優になりたい」という夢をだんだん忘れてしまうみたいに、みんなそういうことを、ちょっとずつ忘れてしまう。

なんなら大人になると、「困っている人を助けたい」なんて、恥ずかしくてなかなか口にできない。

でも、そういう仕事をまっすぐやっている人たちがいる。彼らのことを「ソーシャルワーカー」と呼ぶらしい。

今回お会いするのは、ソーシャルワーカーの1人、横山北斗さん。

ソーシャルワーカーの人材育成やネットワークづくりを手掛けているそう。「僕の仕事はソーシャルワーカーとしては少しわかりにくいのですが…、まずはスクールに来てもらうのがいいかもしれません。」とのことで、スクールを覗いてみることになった。

社会へ働きかけていくソーシャルワーカーを増やすスクール

Social Action Schoolと名付けられたプログラムは、毎回いろんなソーシャルワーカーがゲスト講師として来るもので、30名ほどの人たちが参加している。受講生の8割は既にソーシャルワーカーとして働いている社会人、残りは大学生だ。

今回は、岡江晃児さんという社会福祉士・医療社会事業専門員の方がゲスト。国立病院機構大分医療センターに勤めながら、地域の人たちとネットワークをつくって地域医療・福祉に取り組んでいる。がんの患者やその家族が、川柳を使って気持ちを表現する「がん川柳」というプロジェクトがテレビに取り上げられるなど、注目を集めているソーシャルワーカーだ。

「病院を活用して、組織に属しているからこそできるソーシャルワークをやっているんです。」という岡江さんの話に、受講生たちはメモを走らせている。

今いる社会人の受講生たちは、医療機関やNPOなど、組織に勤めて働いている人が多いそうだ。岡江さんのように組織に属しながら、組織を活用して社会に働きかけていくようなやり方は、「独立起業はちょっと難しいな」と思う人にも、参考にしやすいのかもしれない。

それにしても、受講生の方たちは、すごい熱意だなあと思う。ソーシャルワーカーとして働いている人たちは、大学や専門学校などで社会福祉士や精神保健福祉士の国家資格取得のために勉強をしてきた、有資格者であることが多い。ここのスクールに来ている人たちは、休日を使って、さらに勉強しに来ていることになる。現場で専門職として働くだけでなく、社会へも働きかけていけるように…というのが、スクールの狙いだ。

こういった人材育成の場やソーシャルワーカー同士の横のつながりを、NPO法人Social Change Agency 代表の横山さんは、つくっている。

「Social Change Agencyは、当事者のニーズの代弁者であれるようなソーシャルワーカーを日本に増やしたい、と思って立ち上げた法人です。貧困など、特定の社会問題にアプローチするのではなく、対象者の背後に数多くの社会問題を垣間見ることができる福祉現場で働く私たちソーシャルワーカーこそ、当事者とともに社会に働きかけていかなければならないという課題意識です。最初は草の根でネットワークをつくるところから始まりましたが、今年からは福祉職への人材育成のプログラムを実施しています。」

ソーシャルワーカーというと、困っている人の相談に乗るような仕事をまずイメージするけれど、横山さんの仕事は、それとはちょっと違う。毎日どんな風に働いているんだろう…?ということで、ある1週間の働き方を教えてもらった。

スクールで使う資料の準備をしたり、法人メンバーや連携先と打ち合わせをしたり、連携先の現場で相談支援を行ったり、研修企画・人材育成の仕事や相談支援の仕事がメインだ。

困っている当事者は、社会をより良くする「種」を持っている

人材育成に力をいれている背景は、どんなものなのだろう。「福祉現場で働く人っておとなしい人が多いよね…」なんて話は少しだけ聞いたことがあるけれど、今の福祉業界のあり方に、なにか問題を感じているのだろうか。

「福祉の現場において、困っている方たちが支援するだけの対象として見られていることに、課題を感じていますね。当事者の方たちは、社会構造上のひずみを引き受けて、それによって困っているわけで、社会をより良くしていく種を持っているとも言い換えられると思うんです。」

「けれど、そういうまなざしの転換が、業界の中ではなかなかされていない。もちろん、各現場で個別の支援はとても丁寧にやっていると思います。けれど、当事者の方に教えてもらった種を、社会にフィードバックしたり仕組みに活かしたり、そういう考え方、行動がもっと増えていくべきと思っています。自分のソーシャルワークの定義は、個人の問題をちゃんと社会化していくことなんです。」

スクールは実施して半年というけれど、どんな手ごたえなんだろう。

「参加者のうち7名ほどを1期生として選抜して、重点的にサポートしているんですが、みなさん、さまざまな行動の変化を起こしています。」

「所属機関内部に働きかけて業務改善をした方、スクールの講師の団体と協働し新規事業を企画した方もいました。また、地域の社会資源をネットワーク化し、⾏政に提⾔をしたり、起業準備のためのUターン転職を決めた方もいるなど、プログラムを提供するわたしたちも刺激を受けています。」

しかし、人材育成をしたりネットワークを作ったり、とても大切なことだと思うのだけれど、それで経営は回るんだろうか…? スクールも、1期生として選抜されたメンバーは参加が無料とのこと。受講者にとっては有難い仕組みだけれども、おせっかいな私は少し心配になってしまう。

「スクール以外にも、他のNPOや当事者団体との連携協働事業などもやっています。たとえば、居場所をつくる事業を立ち上げる際に、どうしたら困っている人に来てもらいやすくなるか、一緒に考えたり、相談支援を行う現場もあります。あとは、ソーシャルワーカーを採用したいというNPOのソーシャルワーカーの採用サポートなども行っています。そこで得ている事業収益を、スクールでの人材育成事業へ投入しています。」

「ただ、収益をどうつくるかは、本当に難しいですね。自分たちのサービスは直接支援ではないわけです。ソーシャルワーカーをサポートすることを通して、現場の困っている人にも寄与する…という事をやっているのですが、様々な社会課題がある中で、その重要性を伝えるのはなかなか難しい。経済的にどう成り立たせるかは、悩んできたところです。」

2013年に団体を立ち上げてから、ずっと無報酬で活動してきた横山さんだが、2015年に法人化。1年半前くらいから、ちゃんと報酬を得ることができるようになってきたそう。並行して、専門学校の講師なども務めている。

自分に闘病経験があるからこそ、できることを見つけた

事業内容だけでなく、もう少し、横山さん自身のストーリーも、聞いてみたいと思う。どういうきっかけで、ソーシャルワーカーになったんだろう?

最初から福祉に興味があったわけじゃないんですよ。父も母も福祉と全然関係ない仕事でしたし、身の回りにそういう仕事の人はいなかった。子どもの頃から望遠鏡で星を見るのが好きだったので、大学も最初は宇宙系の工学部に進学したんです。」

そうして工学部へと進んだが、ソーシャルワーカーになるきっかけは、入学後すぐに訪れた。

「進学してすぐの4月、ある当事者の集まりに参加したんです。実は、子どもの頃に小児がんになった経験があるんですね。中学2年生の頃で、最初はただの風邪かと思ったんですけど、大学病院で調べたらがんで、手術で腫瘍を切除したり、放射線治療を受けたりしました。そういう風に、子どもの頃に癌を患った当事者が集まる会が東京にあるって、新聞で知って。」

「そこで、小児がんになった経験がある方たちと出会いました。後遺症が残る方もいれば、闘病によって学校を休んだまま退学してしまった方、社会生活から離脱して家に閉じこもりがちな方など、苦しみ続けている方もたくさんいる。自分は同じ病気をしたけれども、なんとか大学に行って社会生活ができている。いろいろな人に支えられているし、恵まれているなと感じたんです。」

「その時から、社会生活を送ることができている自分だからこそ、何かできることはないかと考えるようになりました。その当事者の会は、ソーシャルワーカーの方が場づくりや運営をされていて、そこでソーシャルワーカーという職業を知りました。」

そして、横山さんは大学2年の時に、工学部から福祉系の大学に編入。

「なにか救いのような、すがるような思いで編入学を決めました。それまで、自分の過去、自分の闘病経験にいいイメージを持てていなかったんです。でも、ソーシャルワーカーという仕事を知って、闘病経験があるからこそできることがあるのかもしれないと、人生の扉が開いたような気がしました。ですが、入学後、誰しも人生でさまざまな経験をしており、経験だけで何かができると考えることのあさはかさに気づくことになるのですが。」

家族も、最終的には編入を応援してくれたそう。編入してからは、大学の近くにあった小児専門の医療センターで活動をはじめる。

「自分が闘病していたのは14、15歳ごろなのですが、3つ下に弟がいました。病院では、感染症などのリスクがあってきょうだいの子どもが病棟に入れないことが多く、弟も、父母が看病に来ている間、ずっと外で待っていました。なので、入院している子どもたちのきょうだいの遊び相手になるという学生団体を立ち上げたんです。」

「その中で親御さんと接する機会も多くなり、病気の子どもに手いっぱいでなかなかきょうだいに時間を割けないなど、苦労をいろいろと聞きました。その声をメディアの人に伝えて、地方新聞の記事にしてもらったり、関東のNHKの番組で取り上げてもらったりもしたんです。個人の問題を社会化することの意味を、子どもや親御さんの声から考えさせてもらうことができた経験でした。」

それが、「困っている人を支援するだけでなく、社会へも働きかけていこう」という横山さん自身の、原体験だった。

当事者の人たちだけでは力が足りなくて声をあげることが難しくても、近くにいる人たちが、当事者の人たちと一緒に気づきを発信していくことはできると思うんです。ソーシャルワーカーでも医療職でも。そうして、社会に問題提起したり、解決したりする仕組みをつくるのが、すごく重要なんだなって。」

そんな気付きを得て、大学を卒業した横山さんは、ソーシャルワーカーとして病院へと就職する。

「非常にやりがいもあって、8年勤めました。ただ病院のソーシャルワーカーはどうしても、生活上の問題が積み重なって病気になってから、困っている人たちと出会う形になってしまうんですね。本当は、病院に来るほど酷くなる前に、できるサポートもあったかもしれないのに。川下よりもっと川上で。そう思って、病院を離れて、独立したんです。」

受講者が、主体的に行動していくプログラムをつくりたい

今は法人化して3期目になるわけですが、これからは、どんなことをしていきたいと考えているんでしょう。

「今年、人材育成プログラムを始めて、社会的なニーズがあることも確かめられたので、来期以降はプログラムの質をもっと向上していきたいです。スクールで学んだことをどう現場で活かしたか、参加された方の行動がちゃんと変わっていくようなプログラムをつくりたいですね。」

「今年も自分で新規事業を立ち上げられる方がいましたが、受講生の方が現場で対象者を支援する中で、『アクションを起こすべきだ』と思った時に、ちゃんと伴走できるようになりたいなと思います。独立を考えている人に対しては、私たちが繋がっている現場のフィールドを紹介して、事務局やファシリテーションを手伝ってもらうなど、スクールだけではなく、実地で経験を積むところまでさまざまなかたちでサポートできたら、と。」

「加えて、ソーシャルワーカーがいるべきだが、現在は配置されていない場所にソーシャルワーカーを配置するためのアクションも行っていきたいと考えています。」

これまでの取り組みを通して、いろんなソーシャルワーカーを見てきたと思いますが、「こういう人がソーシャルワーカーに向いている」というようなものはあるんでしょうか…?

「ひとつは、人に興味がある人、ちゃんと敬意を持って相手と対峙できる人ですね。個人の問題を社会化するなど、今日は社会に対してやれることをたくさんお話しましたが、基本は、目の前の個人をどう支えるかなんです。そこを通り越して、地域や社会をよくすることって難しい。なので、まずは目の前の相手と、きちんと向き合えることが大事ですね。」

「あとは、根っこが楽観主義な人。現場で出会う人の抱えている現実が、とても重いと感じられることはよくあります。でも、それを悲観的に分析して、勝手にこちら側が絶望したりするのは、あまりよくない。どんなに重い現実であっても、目の前の人には力があるし、その人の人生をなんとか生き続けていけるだろうと信じられることが大事だと強く思っています。」

最後に、「ソーシャルワーカーになりたいなら、こういうことをやっておくといいよ」というアドバイスを聞いてみた。

「とにかく社会に対する関心を持っておくということですね。相手の話をどう聞くかやどう質問するかの技術は、時代が変わってもすぐには変わらないんじゃないかと思うんです。でも、当事者の方が抱えている困難を生み出している背景は、どのような社会かによって変わってきます。社会についての深い見識がないと、困りごとを読み解いていくことが困難になる。なので、社会に対してちゃんとアンテナを張っておいてほしいですね。」

「あとは、ソーシャルワーカーがひとりでできることは、ほとんどないんです。相手を支援するにも、医療スタッフとか学校の先生とか、相手をとりまくいろんな関係者たちと一緒にチームを組んでやっていくので、いろいろな人たちと繋がりを持つことも大事ですね。」

"社会へもっと働きかけていこう"という横山さんのメッセージは、ソーシャルビジネスに関心がある人や、メディアの仕事をしたい人にも、響くものがあるかもしれない。ソーシャルワーカーというと、困っている人の相談に乗る人をイメージしていたけれど、彼の話を聞くと、それだけではないんだな…と思う。

ソーシャルワーカーの仕事は、みんなが想像しているよりも、きっとずっと、幅広い。

テキスト・写真 田村真菜 2017年11月6日

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